Tasteless Blog

Archive for the ‘歴史・神話’ category

2015年も1/4以上過ぎてしまったというのに、ようやく今年最初のブログ更新……すみません、一応生きてはいました。

先日、ヨワルテクトリで検索していて『蒼穹のスカイガレオン』というゲームでは彼は女性になっているということを知りました。SM女王様……なんでそういうイメージになったのか、想像は付くけど……ヨワルテクトリは女神じゃねぇ。
やっぱり『ヴィジュアル版世界の神話百科アメリカ編』でトナティウの配偶神だなんて訳すから、配偶者のことだと誤解されてこんなことに。紛らわしい言い回しだよなー……と思っておりましたが、そういえばエジプト神話の本でも配偶神って単語は使われてました。『図解エジプトの神々事典』にはちょくちょく配偶神と書かれている、ということは配偶神という言葉自体は別におかしくないのでしょうか。
「有名だからといって信頼できるとは限らないアステカ神話のあれこれ・その1」の「トナティウの妻は夜の太陽ヨワルテクトリ」の項にも書きましたが、配偶神とはcounterpart(フランス語ではcontrepartie)の神話分野における訳語のようです。この単語は「対の片方、片割れ、対応するもの・人。そっくりなもの・人」という意味はありますが、「夫または妻」といった婚姻関係を示すような言葉ではありません。
「対応するもの、そっくりなもの」という使い方が分かりやすい例として、スーザン=ミルブラス『Heaven and Earth in Ancient Mexico』より以下に引用します「In the Maya Area, K’awil seems to be the counterpart for Tezcatlipoca」。これは「マヤ地域では、カウィールがテスカトリポカに対応する神のようだ」というようなことであって、テスカトリポカとカウィールが夫婦関係にあるとは考えられないでしょう……ないよね?
また、他の地域の神話での例としては、こういうものがあります。「List of Roman Gods and their Greek Counterparts」ゼウスとユピテルが夫婦関係にあるとは考えられないでしょう……ないよね?
しかし、配偶者を強く連想してしまうため、日本では本来の用法ではないのですが「配偶神=配偶者(夫または妻)である神」という意味合いで用いられることの方が多くなってしまったようです(専門家の間ではどうだか知りませんが、一般の神話ファン等において)。
もっとも、実際、男女のペアだと夫婦関係にあることが多いので、結果的に「配偶神=配偶者である神」になっているケースもあります。しかし、それはあくまで結果的にそうなったということであって、counterpart本来の意味ではないので、誤解のないようにしなければなりません。
ともあれ、日本語の文章に出てくる配偶神という単語は「counterpartの訳語(本来の用法)」と「配偶者である神(誤用)」の2つのパターンがあり得るので、読む際にはどちらを意図して書かれているのか注意する必要があります。

トラン(トゥーラ)が舞台のケツァルコアトルとテスカトリポカの対立の物語にはいくつもバージョン違いがありますが、その中で私は『絵によるメキシコ人の歴史』第8章に収録のものが特に気になっていました。
なんだか盛り上がりに欠けるのです。
要約すると、「原初神夫婦トナカテクトリとトナカシワトルから生まれた4兄弟の1柱、赤のテスカトリポカことカマシュトリまたの名をミシュコアトルは岩を杖で打ってチチメカ人を出現させ、自らもチチメカ人に姿を変えた。カマシュトリは天から落ちてきた双頭の鹿を捕らえ戦争を続け、太陽に食物を捧げた。しかし、カマシュトリが野原で1人の女(黒のテスカトリポカが作った5人の女たちの子孫)と会った際、チチメカ人はカマシュトリに戦いを仕掛け、彼に勝利をもたらしていた双頭の鹿を奪ってしまった。女はセ=アカトル(類話に登場するセ=アカトル=トピルツィン=ケツァルコアトルと同一人物と考えられる)として知られる息子を産んだ。セ=アカトルは苦行を行い強い戦士となり、戦争を行いトゥーラの最初の支配者となった。セ=アカトルが大神殿を建設すると(黒の)テスカトリポカが現れ、お前はトゥーラを去って終の家があるトラパランへ行かねばならないと言った。セ=アカトルは、天と星々が自分の運命を告げていたと答えた。4年後、セ=アカトルは民を連れてトゥーラを発ち、チョルーラ・コスカトラン・センポワランに民を残していった。セ=アカトルはトラパランに着き、その日のうちに病を得て翌日死んだ。そしてトゥーラは人口が激減し、9年間支配者がいなかった」といった感じです。

他のバージョンだと、テスカトリポカたちはケツァルコアトルに酒を飲ませて神官の勤めを忘れさせるとか小人の見世物で民衆を集めて殺したりとか、さまざまな手段でケツァルコアトルを追い詰めてトランを去るよう仕向けますが、『絵による』だとテスカトリポカがやって来たときにはすでにセ=アカトルは自分の運命を悟り覚悟完了していたようです。テスカトリポカと対立していたと取れる描写も特になく、異質な印象を受けます。
なお、先ほども()で注釈をつけましたが、この話のセ=アカトルは類話のセ=アカトル=トピルツィン=ケツァルコアトルと同一人物と考えられていますが、しかし彼と神ケツァルコアトルとの関係は特に言及されていません。この話のセ=アカトルは赤のテスカトリポカ(カマシュトリ或いはミシュコアトル)と黒のテスカトリポカの子孫です。
その異質さとおそらく盛り上がらなさ故か、アステカ神話についての本でもあまり話題にならないのですが、そのためかえって私は引っ掛かりを覚えていました。

ところで、人口が激減したトゥーラはその後どうなったのでしょうか?
続く第9~11章を元にかいつまんで説明すると、「(第4の太陽を終わらせた)大洪水から130年後、ヌエバ=エスパーニャの西方やや北よりの地アストランに住んでいたメシカ人は新たな土地を発見し征服するため出発した。シウツィン・テクパツィン・クアトリクエの3人に率いられたメシカ人は、トナカテクトリとトナカシワトルから生まれた4兄弟の1柱で彼らの守護神であるウィツィロポチトリの神殿を建てるべく神像と共に旅をした。トゥーラの向かいの山コアテペックにはテスカトリポカが創造した5人の女たちが住み苦行を行っていた。その中の1人コアトリクエは処女であったが、白い羽を懐に入れると妊娠した。万能の神ウィツィロポチトリが新しく生まれるためにそうしたのである。するとコアトリクエの兄弟に当たるテスカトリポカに作られた400人の男たちが彼女を焼き殺そうとしたが、完全武装で生まれてきたウィツィロポチトリが彼らを皆殺しにした。その後もメシカ人はウィツィロポチトリの神殿を建てたりしながら旅を続けた。メシカ人がトゥーラに着くと、トゥーラの住民の前にウィツィロポチトリの黒い姿が現れ、地下から悲しげな泣き声が聞こえた。4年後、トゥーラのある老婆が住民それぞれに紙の旗を配った。トゥーラの住民は自分たちの死すべきときが来たことを知り準備をし、皆自ら生贄の石の上に身を投じた。トゥーラの住民は誰一人として生き残らず、メシカ人がトゥーラの支配者となった」

私が思うに、『絵による』第8章で書かれたセ=アカトルとテスカトリポカの話は、第11章で書かれるトゥーラの住民の滅亡とメシカ人がトゥーラの新たな主となる展開を導くための伏線というか前振りというかだったのではないでしょうか?
もちろん、『絵による』の記述すべてが実際に起こったことではないでしょう。そういうことではなく、元は余所者であったがメキシコ中央高原の覇者となったメシカ人が自分たちの権威を正当化するための手段とした「歴史」を見ることで、彼らが自分たちをどのようなものだと思おうと、思わせようとしていたかが伺えるのです。
ケツァルコアトル(セ=アカトル)とテスカトリポカが対立し、ケツァルコアトルがトランを去る羽目になったという話の元となった事件は、おそらくかつてトルテカ人の都市トランにおいて起きたことでしょう。それは時期的にメシカ人とは直接の関係はなかったでしょうが、メシカ人は自分たちの歴史と件の伝説とを関連付けました。
メシカ人がメキシコ中央高原に定住した頃には、トルテカ人とはかつてこの地にいた素晴らしい人々として語られ、彼らの王セ=アカトル=トピルツィン=ケツァルコアトルは名君にして神でもあり人でもある存在と考えられていました(当時の人々は現代人のように神話と歴史を分けて考えたりせず、ケツァルコアトルとは神でも人でもあるとにかくすごい存在だと見なしていたように思われます。また、ケツァルコアトルとは神官の称号でもあったので、歴史上ケツァルコアトルと呼ばれた人物は複数います)。
『絵による』によれば、トゥーラの初代支配者セ=アカトルは黒のテスカトリポカが作った女の子孫から生まれ、自らの死の運命を知り、4年後に自ら死地に赴きました。メシカ人の守護神ウィツィロポチトリは黒のテスカトリポカが作った女の胎内に宿りもう一度生まれました。メシカ人がやってきたとき、トゥーラの住民は自分たちの死の運命を知り、4年後に自ら生贄となりました。
第11章に書かれたトゥーラの住民の死は、第8章のセ=アカトルの死をなぞったかのようです。或いは、トゥーラの住民の死を予告するものとしてセ=アカトルの死が描かれたか。
メシカ人は征服によって土地を獲得したことを自ら誇りにし、また、かつてこの地にいた理想的と考えられた人々トルテカ人の後継者たらんとしていました。そんな訳で、メシカ人はトゥーラの人々が自ら生贄となり死に絶えることでトゥーラを手に入れたという話を作り出したのではないでしょうか。それは定められた運命であり、トゥーラの人々も受け入れていたものだとする話を。
そして、それを強調するために、過去にも同じようなことがあった、トゥーラの偉大な支配者セ=アカトルも自らの死の運命を受け入れていた、そんな話も作ったのだと思います。また、後の世でも神聖視されるセ=アカトルを暴力的に追い出したとするのはイメージが良くないという思惑もあったかもしれません。それで、元々の話では敵対者として現れていたテスカトリポカも策略を用いたりセ=アカトルを攻撃したりせず、ただ死を予告しにやってきただけになったのでしょう。
テスカトリポカといえば、セ=アカトルと(再び生まれた)ウィツィロポチトリは共に彼の子孫に当たります。テスカトリポカが400人の男たちと5人の女たちを創造したのはそもそもは太陽の食料とするためで、実際彼らは一度死にました。しかしいつの間にか生き返っていました。トゥーラの支配者セ=アカトルとメシカ人の守護神ウィツィロポチトリを血縁者とするためもあってそういう展開にしたのでしょうか? テスカトリポカが太陽を養うために400人の男たちと5人の女たちを創造した話は本来はメシカ人やウィツィロポチトリとは無関係だったが後から関連付けられたのではないかと思います。
ついでに言うと、ウィツィロポチトリ誕生譚には、チマルマンという女性が翡翠を飲み込んでセ=アカトル=トピルツィン=ケツァルコアトルを身ごもったという『クアウティトラン年代記』の話や、父母たる太陽と大地に捧げものをしない400人のミシュコアをその弟妹である5人のミシュコアが討つ『太陽の伝説』所収の話や、セ=アカトルが叔父たちないし兄たちに殺された彼の父でありチチメカの指導者カマシュトリないしミシュコアトルの敵を討つ『太陽の伝説』や『メキシコの歴史』に書かれた話などの影響も見られます。
話を戻すと、セ=アカトルとウィツィロポチトリとをつなぐものでもある『絵による』のテスカトリポカには、セ=アカトルをトゥーラから旅立たせるための悪事を働かせる訳には行かなかったのでしょう。後にやって来るウィツィロポチトリとメシカ人の正当性を損なわないためには。

こうして見ると、メキシコ中央高原に勢力を広げたメシカ人が自分たちに都合のいいよう歴史を改竄したという話は有名ですが、『絵による』のトゥーラのセ=アカトルとテスカトリポカのエピソードもまた改変をこうむったもののようです。新参者だったメシカ人が現地に伝わる伝承を脚色しつつ自分たちの歴史に取り入れ、自分たちが覇権を握ることの根拠としたのです。
ケツァルコアトル(セ=アカトル)とテスカトリポカのエピソードは本来はメシカ人とは関係ないものでしたが、『絵による』のそれはメシカ人の覇権を正当化する「歴史」の挿話として作り変えられたもので、もはやテーマからして違うものでしょう。
冒頭で盛り上がりに欠けるといいましたが、そういう展開になってしまったのにも理由があります。類話との相違から見えてくるものがあります。あまり盛り上がらないからとか他の伝承とは設定が違うからとか、そんなことでスルーしてしまうのは勿体ない気がしますね。

 

塩だれが大人気

9月 10th, 2014


 編集長殿
 警察が俺を捕まえたという話をずっと聞かされているが、当の俺自身がこうして平穏無事でいるのは、どうしたわけなんだい。犯人の逮捕は時間の問題なんだって? 奴等の賢さには、全く笑ってしまう。”皮エプロン”の冗談には、もうちょいで笑い死にするところだったよ。
 俺は売女どもに恨みがあるんだ。逮捕されるまで、奴らを切り裂くのを止めないぞ。対した芸術品だっただろう、この間の仕事は。御婦人に、一声の悲鳴もあげさせなかった。
 警察のボンクラどもが、どうやって俺を捕まえるのか。俺は、楽しんで作業をさせてもらっている。好きなんだね、根っから。またやるつもりだ。諸君ももうすぐ、俺のしでかすささやかなお遊びのことを耳にするだろう。
 俺は前の仕事の時に、こういう手紙にピッタリの例の赤い液体をジンジャー・ビールの瓶に保存しておいたのだが、時間が経ったら糊みたいに固まっちまって、もう使えやしない。だから赤インクで間に合わせている。様になっているといいんだが、へっ! へっ!
 次の仕事では、御婦人の耳を削いで、警察に送ってあげるつもりだ。なあに、つまらない冗談さ。この手紙は、それまで取っておくがいい。俺の仕事がすんだら、公けにするんだ。俺のナイフは、立派で切れ味もいい。チャンスさえあれば、きっちりとし遂げてみせる。
 じゃあ、よろしく。
                   敬具
          ジャック・ザ・リッパー
 もう俺の呼び名のことで、気を遣わないでくれ。この手紙を出すのは、今ペンに付いている赤インクを使い切ってからにしよう。ちくしょう。ついてねえ。俺が医者なんだって? へっ! へっ!

 (スティーブ=ジョーンズ著・友成純一訳『恐怖の都・ロンドン』より)
 
 


 やあ、ボス
警察はおれを捕まえたようなことをぬかしているが、まだ皆目分かっちゃいねえ。したり顔して目星はついたなんぞはお笑い草さ。レザー・エプロンが犯人だなんてのは悪い冗談だ。おれは売春婦が大嫌いで、お縄になるまで切り裂くつもりさ。この前の殺しは大仕事だった。レディにゃ金切り声ひとつあげさせなかったからな。捕まえられるものならやってみな。おれはこの仕事に惚れこんでいるんだ。またやるぜ。おれの面白い遊びを耳にするのもじきのことさ。この前の仕事について書こうと、赤い血をジンジャー・ビールの瓶にとっておいたんだが、膠みたいにねばねばして使いものにならない。赤インクも乙なもんだろう、ハッハッハ。お次はレディの耳を切り取って、警察の旦那方のお楽しみに送るからな。この手紙をとっておいて、おれが次の仕事をしたら、世間に知らせてくれ。おれのナイフは切れ味抜群でね、チャンスがあればすぐにでも取りかかりたいよ。じゃあな。
          あんたの親愛なる切り裂きジャック
これがおれのあだ名さ。
 赤インクの乾かないうちに、この手紙をポストに投げ込んだのは悪いことしたな。残念ながらまだ捕まらんよ。このおれが医者だとはな。ハッハッハ。

 (仁賀克雄著『切り裂きジャック 闇に消えた殺人鬼の新事実』より)
 


 ボスさんへ
 警察はおれを捕まえたそうだけど、おれをやっつけようなんて10年早いってもんだ。えらそうな顔をして捜査は順調だとはよく言った、笑ったよ。レザー・エプロン云々にはもう爆笑。こっちは売女に恨みがあってね、恨みを晴らすまで切り裂きをやめるわけにはいかないんだ。このあいだの仕事はみごとだったろ? 悲鳴ひとつあげさせなかったんだから。さて、どうやっておれを捕まえるのかな? この仕事が気に入ってんだ、またやりたいよ。じきに、おれがまた楽しんだってニュースを聞かせてやるよ。インク代わりになるかと思って、このあいだ、真っ赤なところをもらってきたんだ。ジンジャー・ビールの瓶に入れておいたら、どろっとしちまって、使いものになりゃしない。赤インクでかんべんしてくれ、ハ、ハ、ハ。次の仕事のときには、ご婦人がたの耳を切って、警察のおえらがたに送ってやるよ、たのしみだろ? この手紙はしまっておいて、おれがもうひと仕事したあとで、でーんと発表するんだな。ナイフはぴかぴか、すぐにでもやりたいよ、チャンスがあればな。じゃあな。
          切り裂きジャックより(ペンネームでかまわないよな)
 両手の赤インクをろくに拭いもしないで、投函しようなんておれもドジだ。ちくしょうめ。まだまだだな。今度はおれが医者だって? ハ、ハ、ハ。

 (スティーブン=ナイト著・太田龍訳『切り裂きジャック最終結論』より)
 


親愛なる警察サ ツ旦那ボ ス
 警察が俺を捕まえたという噂を何度も聞いたが、今になっても俺のことがわからないんだな。警察のやつらがしたり顔に、操作が軌道にのってるなんていうのを聞いて、俺は笑っちまったよ。皮エプロンヽ ヽ ヽ ヽ ヽなどという冗談には吹きだしたぜ。俺は売女どもに恨みがあるのだ。パクられるまでは止めはしないからな。この前は大仕事だったぜ。女に悲鳴をあげる間も与えなかった。俺を捕まえられるわけがねえだろ。俺は好きでやってるんだ。またやる気でいるぜ。近いうちに俺の一風変わったお遊びをお目にかけるとしよう。こないだのことを書きつけるのに、おあつらえむきの赤いやつをジンジャー・エールの瓶に入れて用意してはいたんだが、にかわみたいにねばついて使いものにならないのだ。赤インキでも悪くはなかろう。ハッハッハ。この次は女の耳を切りとって、お楽しみにそちらへ送ってやるからな。この手紙は保管しておいて、俺がもうちっと仕事をしてから公表しろ。俺のナイフは切れ味がよい。チャンスさえあればすぐにも仕事にとりかかりたいものだ。それではこれにて。敬具
          切裂きジャック
追伸 俺のとっておきの名前を使ったぜ。赤インキのついた手を洗わないまんまで投函して悪かったな。俺が医者だなどというのは迷惑だぜ、ハッハッハ。

 (ドナルド=ランベロー著・宮祐二訳『十人の切裂きジャック』より)
 


 当局の旦那方へ
 俺様がこのところずうっと噂に聞いていることには、警察はすでに俺様を捕まえたとかぬかしよる。だが、俺様の目星すらまだついていないではないか。噴飯物だな、連中が小利口顔し た り がおしてこの俺様を捕まえるのも時間の問題だとかほざくのを聞くと。革エプロンの奴が真犯人 ほんぼし だとか、冗談も休みやすみ言ってくれ。
 俺様は売春婦どもに恨みがあるのさ。だから奴らを切り裂くのは断じて止めん。この身朽ちるまでな。実に見事なもんだったろう、せんだっての俺様のお手並みは。御売春婦お ね え さんには金切り声ひとつあげさせなかったからなぁ。こんな立派な惨殺こ ろしの腕前の俺様を、一体全体どうやってポリ公たちは捕まえるのかねぇ。俺様はねぇ、あの切り裂きの成果に御満悦なのさ。また殺りてえよ。間もなく諸君は、俺様の消息と、同時に俺様の道楽のささやかながら新趣向あ ら ての妙手を耳にすることだろうよ。
 せんだっての切り裂きお楽しみ最中に、俺様は売春婦 や  つ の赤い血をジンジャービールの瓶に溜めこんだ。ほかでもない血のインクで諸君にお手紙を書こうと思いましてな。ところが、そいつはニカワみたいにくっつきやがって、とてもつかいもんにならんわ。諸君に出す手紙は、赤インクで書くのがふさわしいよ。ハハハァ!
 次なる俺様の切り裂きには、必ず御売春婦お ね え さんの両耳をちょん切って、ポリさんたちに必ず送ってやろう。それというのも、ほかでもない、そいつを送れば、皆さんは忙しく”はしゃぎ”まわるんじゃござんせんか。
 この手紙は、次なる俺様のちょいとした切り裂きをするまで、公表しないで伏せておき給え。なぁに、俺様が切り裂きを終えたら、すぐに公開し給え。すぐにとりかかるってことよ。格好の売春婦あ い てを見つけ次第な。何しろ俺様のナイフときたひにゃ、切れ味がいいもんでなぁ。じゃ、諸君の御多幸を祈るぜ。
          切り裂きジャックより
 気にしないでくれよ、俺様があだ名をつかったことを。他意はないよ。それにしても不本意なことは、赤い血のインクで書き送れないうちに、この手紙を投函するなんて。全くこの俺様としたことが、ドジなこの両手を呪うよ。
 ついてなかったよ、だがな、今じゃ世間で噂してるじゃないか、俺様が医者だって、ハハハァ。医者ならできるさ、血のインクも。

 (益子政史著『ロンドン悪の系譜 スコットランド・ヤード』より)
 

 
ここしばらく翻訳について悩んでいたので、切り裂きジャック研究書を本棚から引っ張り出し、犯人が書いたと称する手紙の和訳を読み比べておりました。そしてそれらのうちのいくつかをここに引用しました。
ちなみに、英語の原文は以下の通りです。
 


Dear Boss,
I keep on hearing the police have caught me but they wont fix me just yet. I have laughed when they look so clever and talk about being on the right track. That joke about Leather Apron gave me real fits. I am down on whores and I shant quit ripping them till I do get buckled. Grand work the last job was. I gave the lady no time to squeal. How can they catch me now. I love my work and want to start again. You will soon hear of me with my funny little games. I saved some of the proper red stuff in a ginger beer bottle over the last job to write with but it went thick like glue and I cant use it. Red ink is fit enough I hope ha. ha. The next job I do I shall clip the ladys ears off and send to the police officers just for jolly wouldn’t you. Keep this letter back till I do a bit more work, then give it out straight. My knife’s so nice and sharp I want to get to work right away if I get a chance. Good Luck.
 
Yours truly
Jack the Ripper
 
Dont mind me giving the trade name
 
PS Wasnt good enough to post this before I got all the red ink off my hands curse it No luck yet. They say I’m a doctor now. ha ha

 

結局悩みは解決していませんが、久し振りにジャック本を読むのは楽しかったです。殺人事件を面白がるとか不謹慎だとは思いますが、「事実は小説より奇なり」を地で行くような展開とか当時の時代背景とか、やっぱり興味深いんですよ。サイトの方は長らく放置かましているとはいえ、二十年来切り裂きジャックは私にとって重要なものです。
ルイージが不遇だとかコクッパの出番がないとかいったことにうんざりしてマリオシリーズから距離を置いていた私がその頃ハマっていた格闘ゲーム、ワーヒーことワールドヒーローズシリーズの(当時の)最新作『ワールドヒーローズ2JET』の新キャラとして切り裂きジャックが登場していたことから興味を覚え、さらに書店で偶然手に取った『恐怖の都・ロンドン』に書かれていた史実の切り裂きジャック事件があまりにも印象的だったため、事件に関する本をもっと探したり自分なりに小説化してみたりするなど、それはそれは入れ込んでいたものです。その後もも切り裂きジャックツアーに参加するべくロンドンに飛ぶなど興味は持続しています、っていうかまた行きたい。いろいろ心残りがあるから……。
 


十年前に撮影したパブ・テンベルズ。切り裂きジャックの犠牲者も利用していたという噂の店で、一時期ジャック=ザ=リッパーという店名だったこともあります。旧店名に戻った後も壁に犠牲者リストが掲げられていたり切り裂きジャックグッズがお土産に売られていたりしたそうですが、私が訪れたときにはすでに切り裂きジャック関連物は撤去されてしまっていました。事前に本で読んで楽しみにしていたので残念でした。それでもやっぱりもう一度行きたい、今度はもう少しゆっくりしたい。
 

……と、タイムリーなことに、切り裂きジャックの4人目の被害者とされるキャサリン=エドウズの現場に残されていたというショールから採取したDNAが、それぞれキャサリンとジャックの容疑者の血縁者の子孫のものと一致したというニュースがありました。
英語記事
↑の日本語訳(若干簡略化)
切り裂きジャックの容疑者とされた人物は百名以上に上るそうですが、今回の調査によれば切り裂きジャックとはユダヤ系ポーランド人の理髪師アーロン=コスミンスキなる男だということです。
コスミンスキの名は犯罪捜査部長を務めたロバート=アンダーソンやメルヴィル=マクノートンが容疑者の一人として示唆していました。マクノートンの手記『マクノートン=メモランダ』に曰く、「第2容疑者コスミンスキ。殺人が行われた地域の中心部に住んでいたユダヤ系ポーランド人。長年孤独な悪徳に耽溺したため狂気に陥った(訳注:「孤独な悪徳」とはマスターベーションの婉曲表現。当時マスターベーションは狂気をもたらすとされた)。女性に対する非常な憎悪と強い殺人性向を持っていた。1889年3月頃に精神病院に収容された(そして今もそこにいると私は信じている)。この男はマイター=スクエア(訳注:キャサリン=エドウズの死体発見現場)近くでシティ警察のパトロール巡査に目撃された人物によく似ていた」とあります。巡査に目撃された人物とはコスミンスキその人で、切り裂きジャックだったのでしょうか? もっとも、マクノートンは彼が手記において第1容疑者として名指したM.J.ドルイットを本星と見ていました。
また、彼の精神異常証明に際しては「通りを徘徊し、溝からパンくずを拾って食べ、水道の蛇口から水を飲み、他人の世話になることを拒絶した。ナイフを持ち彼の妹の生命を脅かした。非常に不潔で入浴を拒否している。長年いかなる職にも就こうとしていない」と記録されています。理髪師だったという話と食い違うようですが、理髪師だったというのが本当ならどんな働きぶりだったのか。狂気が激しくなるにつれ仕事もできなくなっていったのか。
 

今回のニュースについて私は、件のショールとそこから採取されたDNAは有力な手がかりではあるでしょうが決定的証拠とするにはいささか弱いかと思います。ショールにキャサリン=エドウズの血液とアーロン=コスミンスキの精液が検出されたからといって、他の事件にもコスミンスキが関与していたかどうかは判りません。切り裂きジャックの被害者は5人だというのが現在の定説ではありますが、本当にそうだったと証明されている訳ではありません。コスミンスキは模倣犯だったかもしれないのです。またコスミンスキの精液とされるものが事件のまさにそのときに付着したということまでは断言できないだろうし、ショールがこれまであまり言及されていなかったことも気になります。
しかし、以前から切り裂きジャックの正体は名士やセレブの類ではなく、市井の目立たないが異常性を秘めた男であったろうと考えていたので、コスミンスキが切り裂きジャックというのはあり得ることではあるとも思います。当時から怪しまれていた人物が結局真犯人だったというのは、正直ガッカリというか拍子抜けというかなところでもありますが。
 

ところで、これで切り裂きジャックをネタにした作品が作りづらくなったという声もちらほら上がっていますが、私としては、フィクションにおける切り裂きジャックはこれまで通りの扱いでかまわないと思います。コスミンスキを切り裂きジャックとした作品を作るのもいいし、別の正体を用意してもいいんじゃないでしょうか。
人々の想像力が生み出し、百年以上の歳月をかけて育て上げた「切り裂きジャック」は、もはや実際の事件には収まりきらない存在になっているのだから。
 

そもそも、この事件を21世紀の今なお話題となるほどのものにした切り裂きジャックという名前。それはこの記事の冒頭に引いた手紙が新聞に掲載されたことによって一躍有名になった訳ですが、手紙の主は実際には犯人自身ではなかったかもしれません。巷で話題の事件に便乗した悪戯だとする見方も強いのです。警察や世間を嘲るようなメッセージを発する自己顕示欲が強い連続殺人者もいますが、1888年のロンドンで売春婦殺しに励んでいた人物もそうだったかは定かではありません。
それにしても、「Jack the Ripper」。なんて印象的でキャッチーな名前でしょう。命名者が犯人自身であれ他の誰かであれ、実に相応しい名を思いついたものだと思います。切り裂きジャックという日本語訳もまた上手いですね。この事件が日本で初めて紹介されたのは牧逸馬の「女肉を料理する男」だそうですが、その中では「斬裂人リッパアのジャック」「斬り裂くジャック」と呼ばれています。「切り裂きジャック」という形に落ち着いたのは一体いつ頃なんでしょうか?
 

ここからは余談……さっそく「誰かアーロン=コスミンスキのコスプレやってみませんか」とか言ってる人がいましたが、実践したとして「あ、あれはアーロン=コスミンスキ!」と判る人がどれだけいるんでしょうか? もしも私がコスプレするならコスミンスキもいいけど、シルクハットをかぶりインバネスをまとい、ナイフを手にした紳士――という、ステレオタイプな「切り裂きジャック(イメージ)」をやってみたいですね。ベタベタなのがいいんです。
余談その2。コクッパと関係ないところで「ルドウィッグ」表記を見かけると一瞬ドキリとしますね。いや、『十人の切裂きジャック』の「容疑者たち」の章の「ペダチェンコ医師」の項に”ルドウィッグ・ザコウスキー”なる名前が出てきて……。そして切り裂きジャック事件とルドウィッグといえば、一時犯人かと疑われたドイツ人理髪師チャールズ=ルドウィッグという人もいました。彼が拘留されている間に、一晩のうちにエリザベス=ストライドとキャサリン=エドウズの2人が殺された二重殺人事件が起こったため、彼は犯人ではないとされたのですが、ところで彼の家主はヨハネスという人だそうなのでラヨシュ=ヤンチとしてはなんだか妙な気分です。
 

「アステカ神話豆知識」でも紹介していたり、先日ツイッターで話題に上ったりしている本『世界の民話12 アメリカ大陸II』。これは読み物としての面白さよりも原典への忠実さを優先した作りで、神話に関する知識を深めたい読者にはお勧めです。しかし、肝心の出典が明示されていないのが残念なところ。という訳で、この記事では『世界の民話12 アメリカ大陸II』所収のアステカ神話の元になった史料を私の判る範囲で挙げていきます。また、カナ表記が一般的ではないものがあるので、それらについても判りにくいものは注記してみます。
 

 「天を立てる」
『絵によるメキシコ人の歴史』より。イツマリンはイツマリ、テネクスショチトルはテネショチトルのようです。ミクスコアトルはミシュコアトル。

 「人間と食用植物の起源」
a 『太陽の伝説』より。
b,c,d 『メキシコの歴史』より。

 「三つの死者の国」
a,b 『フィレンツェ絵文書』より。
c 『インディアス教会史』より。

 「ケツァルコアトルの若き日の物語」
a 『クアウティトラン年代記』より。
b 『太陽の伝説』より。ユイツナワクはウィツナワク。
c 『メキシコの歴史』より。カマクストリはカマシュトリ。

 「アステカ族の流浪伝説」
「メキシコ人がどのようにして~彼らは矢の雨を浴びた……」までは、恐らく『巡礼絵巻(ボトゥリーニ絵文書)』に基づく記述と思われます。ただし、『巡礼絵巻』自体は絵と絵文字のみで描かれており、アルファベットのテキストはメモのようなものが付されているだけです。なお、コルワカンの王コクスコクストリはコシュコシュトリの方がよいでしょう。
「アクソロワとクワウコアトル~「一の火打石」と呼ばれた」の辺りの元になった史料は調査中です。アショロワ(アクソロワ)とクアウコアトルの探索行やトラロックがウィツィロポチトリを我が愛しい息子と呼んだりするのはトルケマダの『インディアスの王朝』、メシカ人のショミミテクトリ(ソミミトル)がクルワカン(コルワカン)のチチクアウトリを生贄にするのは『絵によるメキシコ人の歴史』に書かれていますが、『世界の民話12 アメリカ大陸II』と同様の記述がある史料はまだ見つけられていません。
b,cの元資料は調査中です。

 
 「どうやってタラスカ人を置きざりにしたか」
 「ユイツィロポチトリがアステカ族に未来の首都の幻影を見せる」
 「コピルのいけにえ」
これらはいずれもドゥランの『ヌエバ=エスパーニャ誌』から採られています。
 

アステカ者の皆様お待たせしました、今回は久し振りにアステカ神話ネタです。

たびたび言ってますが、「オメテオトルの4柱の息子たちは赤のテスカトリポカことシペ=トテク・黒のテスカトリポカ・白のテスカトリポカことケツァルコアトル・青のテスカトリポカことウィツィロポチトリ」じゃないんです。「トナカテクトリとトナカシワトルの4柱の息子たちは赤のテスカトリポカことカマシュトリ・黒のテスカトリポカ・ケツァルコアトル・ウィツィロポチトリ」なんです。
この件についてはいずれ詳しくまとめたいんですが、今回はとりあえず長男について語ります。

この「原初神夫婦の4柱の息子たち」の神話の出典は『絵によるメキシコ人の歴史』ですが、そこでは赤のテスカトリポカはカマシュトリ(ミシュコアトル)となっています。しかし、他の史料では赤のテスカトリポカはシペ=トテクだということの方が多いです。それ故か、4兄弟の内訳もシペ=トテク・テスカトリポカ・ケツァルコアトル・ウィツィロポチトリと変更して紹介する記述をしばしば目にします。また、読者にとっても図像がほとんどないカマシュトリよりも、図像が多くしかも皮をはがれた上に生皮をまとっているという衝撃的な姿のシペ=トテクの方が印象的で記憶に残りやすいでしょう。そんな訳で、シペ=トテク・テスカトリポカ・ケツァルコアトル・ウィツィロポチトリが4柱の兄弟神であるという設定が広まったようです。

確かに、『絵による』でもカマシュトリ(ミシュコアトル)は世界の創造の際にはあまり目立った働きをしていません。兄弟4柱勢ぞろいでトラロック・チャルチウトリクエ夫婦を生み出したりはしますが、カマシュトリが単独で何かするということはありません。それではカマシュトリである必然性も薄いので、だったら他の史料で赤のテスカトリポカとされているシペ=トテクにまとめた方がシンプルで解りやすくなる、そう判断する研究者が多いのもうなずけます。

ですが、私はここで異論を唱えます。
なるほど、世界の創造に関する部分を見る限りでは、4兄弟にカマシュトリが含まれる必然性は感じられません。シペ=トテクに置き換えても特に差し支えはないように思われます。
しかし、もっと先まで読むと話は違ってきます。カマシュトリ(ミシュコアトル)はチチメカ人を作り出し、自らもチチメカ人となり一族を率いて各地で戦い、そして1人の女性と出会い息子セ=アカトルが生まれますが、チチメカたちの反乱に遭い物語から退場します。
つまり、カマシュトリには「チチメカの祖」という重要な役割があるのです。
カマシュトリないしミシュコアトルは1人の女性との間に息子セ=アカトルを儲けるが一族の者に裏切られ命を落とす、といった話は『メキシコの歴史』『太陽の伝説』など他の史料にも類話が見られます。
そしてそれは、シペ=トテクのエピソードではないのです。なので、知名度やヴィジュアル的なインパクトなどの理由でもってカマシュトリをシペ=トテクで置き換えてはいけないのです。『絵による』の4兄弟の長男はカマシュトリ(ミシュコアトル)でなければなりません。
『絵による』はメシカ人の「公式の」世界史の好例だともされる史料ですが、メシカ人にとってはチチメカの創造は天地や太陽などの創造と同じように重要なことであったといえるでしょう。
チチメカの祖たるカマシュトリ(ミシュコアトル)が原初神の4柱の息子たちの一員であることが『絵による』で語られる歴史においては重要なことであったと思われます。

ちなみに、『インディアス教会史』という史料では、ウィツィロポチトリ・テスカトリポカ・カマシュトリ・ケツァルコアトルの4柱の神々がそれぞれメシコ(テノチティトラン)・テスココ・トラスカラ・チョルーラの主神であるとされています。『絵による』の4兄弟と同じ顔ぶれだということに何らかの関連があるのかもしれません。

ところで、なぜ『絵による』ではカマシュトリが赤のテスカトリポカなのかということについては、まだ自分的に納得のいく解釈が見つけられていません。黒のテスカトリポカも新しい火を熾す際にミシュコアトルと改名しているので、ミシュコアトル経由でカマシュトリもテスカトリポカと結び付いたのでしょうか?
カマシュトリ(ミシュコアトル)でもありシペ=トテクでもある赤のテスカトリポカとは一体どういうものなのか、今後も調べて行きたいと思います。

それにしても、4兄弟の話については誕生~世界の創造までしか紹介しないだけでなく、『絵による』版のセ=アカトルのエピソードは他の史料のものとかなり違っている(テスカトリポカにトゥーラを去るように言われあっさり受け入れる、というか事前に覚悟完了してたとか)ためにかなりマイナーなこともあり、4兄弟の長男カマシュトリ(ミシュコアトル)がチチメカの祖となったところまでは触れない資料が多いため、本来の神話がなかなか知られないというのはもどかしいものがあります。

拍手・メッセージありがとうございます。
メッセージにはこの記事で返信しております。

「有名以下略3」を書きました。孫引きは危険なんです!
……とはいうものの、いちいち原典に当たるのは大変だというのが正直なところ。だからこそ、資料となる本等を書く人は正確を期すべきだと思うんですけどねー……。
「赤のテスカトリポカことシペ=トテク・黒のテスカトリポカ・白のテスカトリポカことケツァルコアトル・青のテスカトリポカことウィツィロポチトリの4兄弟」とか「イシュトリルトン・マクイルショチトル・ショチピリは健康・快楽・幸福を司る3兄弟」とか、アステカ神話を題材にした創作において人気のネタを否定しまくることになって妙な気分ですよ。
 


約10年前に描いた「Lud-Wig」の続き、という訳ではないけど「Lud-Wig2」。
「なぜ女の子のウェンディがスキンヘッドで男のルドウィッグがふさふさロングヘアーなのか? なぜスキンヘッドにリボン直付けなのか?」などと考えているうちに脳裏に浮かんだ光景。
もし実際にウェンディに髪があったとしたら、眉毛の色から推してダークブロンドじゃないかと思いますが。
ちなみに、「Lud-Wig」はこちら↓。『ニューマリWii』発表以前の作品なのでカラーリングが旧バージョン。

コクッパのカラーリングが変更された理由の推測とか、書きたいネタはたくさんあるんですが、「コクッパ親衛隊」全体のリニューアル案がなかなかまとまらず苦戦しております。

<拍手返信>

(さらに…)

4色テスカトリポカについての話が行き詰っててですねー……「原初神の息子達は4方位を司る4色のテスカトリポカというのは後世の研究者によるこじつけ」、までで済ませるなら簡単なんですが、「それなら何だと思うのか」ということを書こうとすると難しくて。赤のテスカトリポカとは何か……カマシュトリ・ミシュコアトル・シペ=トテク、そして「テスカトリポカ」や「ケツァルコアトル」との関係、それからウィツィロポチトリに盛られまくった設定をどう見るか……あああ、まとまらん! そしてスペイン語難しい!
 

……そんなあれこれを打っ遣ゃって、近年にわかに注目度アップの古代エジプト冥界神メジェドの『死者の書』での登場箇所を探してました。気分転換! 気分転換!
(クリックで全体)
『死者の書』第17章、死者が再び目覚め起き上がるための呪文の中に登場する冥界の神々の1つがメジェドMedjedらしいです。
「彼らのナイフが決して私を支配することのないように、私が決して彼らの拷問道具の下に陥ることのないように。なぜならば私は彼らの名を知っているからだ。私はオシリスの館の者達の中にいて目から光を放ち、しかし彼自身は見られることのないマアチェトというものを知っている。彼は口から出る炎をまとって天を廻り、ナイル川の神ハピに命令を下し、自らは見られることがない。(後略)」
ウォリス=バッジによる英訳
これらのテキストの引用元であるウォリス=バッジ『The Book of the Dead The Papyrus of Ani』ではマアチェトMātchetと読むようになっていますが、これはこの本が書かれた当時(1895年刊)は今とは音の当て方が異なっていたためのようです。バッジはマアチェトの意味は虐げるものthe Oppressorだとしています。
このメジェド(マアチェト)があのアレの名だというのが、現在エジプト学者達の間で受け入れられている見解らしいです。
大英博物館ブログのコメント欄にて閲覧者の1人の「私が何度か見た本当に面白いものが1つあります。それは脚と目が2つ付いた塩入れみたいな形をしていました。とても変わった格好でした。あれは一体何ですか? どんな意味があるんですか?」という質問に対し、キュレーターのジョン=テイラーは「この像はメジェド(名前の意味は「打ち倒す者」)だというのがエジプト学者達の間で現在受け入れられている見解です。(中略)彼の両目だけが見えていて残りの部分(両足は除く)は覆われているという事実はこの(死者の書第17章の)記述に合っているように思われます。残念なことに、この神については何も知られていません」と回答しています。
 

……すみません、4色テスカトリポカは後回しにさせてください。今の私にはまだ難しすぎました。調べるべきことが沢山あって、一朝一夕にはできそうにありません。
まぁ、他にも色々面白いネタはありますしね。「有名以下略」も「日本誤訳」も増やしたいし。できるところからぼちぼちやっていきます。
 

【お題】7分以内に8RTされたら甘ロリのネサワルコヨトルを描きなさい!(診断メーカー)
ツイッターで呟いたところ、規定には満たないもののRTがあり、まさか本当にRTされるなんてと驚いて描いてみました……

……誰だこれ。
おかしいなぁ、絵文書とかお札とかの肖像画見ながら描いたのに、全然面影ないぞ。仕方がないからコヨーテ耳を付けておきましょう。
「甘ロリならかわいい模様のお洋服にしよう、どんなモチーフがいいかな~あ、お菓子模様とかいいかも!」……で、断食するコヨーテネサワルコヨトルをスイーツまみれにするという暴挙。しかもこれが私が初めて描いたネサワルコヨトルって、なんかもう色々と酷すぎる。
世間的にはロリィタといえば長方形のヘッドドレスのイメージがまだまだあるかなとも思いましたが、実際には近頃はあまり見かけないので、この絵でも着けませんでした。ロリィタは自分では着ませんが、見たり描いたりするのは好きです。この絵も描いてて楽しかった。
擬人化ウェンディにもロリィタな格好をさせてみたいんですが、ウチの擬人化ウェンディは無駄にエロいので似合わないという。
そして甘ロリが誤変換で尼ロリになってしまい、ゲッテンカのメルヘン初を思い出しました。尼頭巾のアレンジ具合に唸らされたものです。
ゲッテンカの話が出たので……チマルパインの歴史書のつもりでうっかり日記の方を買ってしまったんですが、1610年に幕府によってヌエバ=エスパーニャに送られた日本人のことが描かれているのが興味深いです。徳川将軍もウェイ=トラトアニになるのかとか(「huey tlahtohuani emperador jabon」ですが、当時のヨーロッパ人は天皇はローマ教皇のような宗教的権威とみなし、世俗の最高権力者である将軍や関白に対してエンペラーの称号を用いていたらしい)、英訳の方の「catana [Asian cutlass]」って日本人が持ってるんだから日本刀じゃないのかと思ったらスペイン語のcatanaは日本刀に限らず新月刀の類も指すのかとか(もちろん語源は日本語の刀)、日本人も肌は白い扱いなのかとか……。
白い肌といえば、「ケツァルコアトルは肌が白く生贄を否定していて、1の葦の年に戻ると予言して去った」という有名な話についての自分なりの解釈がだんだん形になってきたと感じていますが、その辺はまたの機会に。

アステカ……コクッパ……アステカ……コクッパ……。

……なんだこの落書き。

「アステカ神話豆知識」内の「読書案内」「有名以下略1」を加筆修正しました。
「読書案内」では『ヴィジュアル版』をボロクソ言い過ぎたかなという気もしますが、でもやっぱり、この約翰でさえ出来る(あるいはやろうとする)ことをより適性があるはずの人がやろうとしなかった、そしてその結果として不正確な情報が日本のアステカファン・神話ファン等の間に広まってしまったことの影響を思うと、腹が立って仕方ないのです。ああ、私にそれらしい肩書きと立派な装丁の本があれば!
「有名以下略1」は、とりあえずヨワルテクトリの項の配偶神云々についてのみ書き直しました。太陽の石との関係とかはまた後ほど書くつもりです。

アステカアステカ言いつつも、『マリオカート8』に「クッパ7人衆」が登場という情報が入って以来、そっち方面でもソワソワしっぱなしです。WiiU欲しいよう、でも据え置き機はプレイ可能な場所が限られるのが難点……でもやっぱり欲しいよう……。
ところで、「クッパ7人衆」。「コクッパ7人衆」じゃねぇのかよと思いましたが、まぁ「クッパの手下」の下っ端臭さが払拭されただけでも良しとするか。
っていうかね。「クッパの手下」改め「クッパ7人衆」とクッパJr.とは、やっぱり別カテゴリーの存在だと思うんですよ。8兄弟にしたい人達の考えや気持ちも想像はできますが、しかし公式には区別されてると思います。その辺の考察もしたいんですよね、区別することによるメリットについて語りたい。我ながら天邪鬼ですが。
したいんだけどしかし、コクッパネタはこちらから振っても反応がなくてですね…つい反応の多いアステカに流れがちにという部分もあるんですよね……いや、アステカの方が(自分にとって)未知なる情報が膨大だからというのもありますけど……。
それに、ことコクッパに関しては私は色々こじらせてる性質の悪い古参ファンだから……自分が間違ってるのは解ってるし、思い入れを捨てれば楽になれることも解ってる。けど、言うは易し行うは難しというやつで、っていうかそもそもそんな簡単に捨てられるものならこんなに苦しまねぇよっていうか。

今日も今日とてアステカネタですが、今回は神々ではなく王たちの話。
先日ツイッターで書いた第8代メシコ王アウィソトルの死に関する話を加筆・整理してこちらにも掲載します。
 

アウィソトルの最期については洪水の際に逃げようとして頭をぶつけて…という話が有名ですが、出典って何なんでしょう? 別の説もあったよねとドゥランの『ヌエバ=エスパーニャ誌』を見れば、若い頃は心身ともに逞しかったアウィソトルはショコノチコの戦いから帰った後何者かに毒を盛られたのか病を得て、骨と皮に変わり果てて死んだとか。暗殺疑惑のあるメシコ王といえば第7代ティソックが有名ですが、アウィソトルにも毒殺説があったんですね。
ドゥランの本にはアウィソトルの骨壷は太陽の石のそばに埋められたとありましたが、やっぱりあの2006年にテンプロ=マヨールで発見されたトラルテクトリのレリーフの辺りなんでしょうか。なかなか続報が届かないのでもどかしいです。
 

骨壷の行方については今後の発見を期待するとして、アウィソトルが亡くなった当時の話に戻ります。
アウィソトルの死が知らされると、君主諸侯が訪れ弔いの言葉を述べました。
テノチティトラン・トラコパンと共に三国同盟を結んでいたテスココの王ネサワルピリもアウィソトル崩御の報を受けテノチティトランにやって来て、屈みこんで涙ながらに死せる王に語りかけたそうです。遺体に向かってまるで生きている相手に対するかのように語りかけることを、ドゥランはなんと理知的でない慣例かと驚きつつも、ネサワルピリの弔辞を記録しました。
この文章において「王」と訳しているナワトル語「tlatoani」とは直訳すると「語る人」であり、支配者には弁舌が重視されたことが伺えます。特にネサワルピリはその父ネサワルコヨトル同様詩人としても高名でした。
以下にネサワルピリがアウィソトルに手向けた言葉を和訳にて紹介しますが、ナワトル語→スペイン語→英語→日本語と重訳にも程があるうえ、最終工程担当者が約翰なので、内容の正確さは保障されません。大体こんな感じ、ぐらいなつもりでお読みください。
 


おお我が息子よ、勇敢な若者、力強い王よ、安らぎの中にあれ、安息と平穏と共にあれ。

さて、君主よ、あなたはウィツィロポチトリの威風の前に現れるものすべてとこの輝かしい都市への奉仕、あなたが課せられねばならなかったメシコ-テノチティトランの統治という難事とその務めの苦難を残していった。

あなたの王国の貴族や偉大な人々をまるで保護者のいない孤児のように残していった。年老いた男女を、寡婦や孤児、貧窮からの救済を待つすべての貧しい人々を残していった。あなたは父祖と共に憩いに行ったが、あなたが負っていたこの世界を統治する仕事を助けた親愛な人々、あなたの兄弟、従兄弟、おじ、近しい親戚達を見捨てていった。あなたの子女は孤児となり、妻たちは見捨てられた。

あなたが死んでからというもの、太陽は沈み隠れてしまい、この都市は闇の中へと進んでいる。あなたの威厳威風が照らし光を投げかけていた王座には光がない。あなたがその化身として国を治めていたところの神の部屋、草を取り掃除し綺麗に保つようあなたが命じていた全能の神がおわす部屋にはいまや塵芥が満ちている。

いまやあなたはこの苦役の遂行から解放された。常に決断を下していた諸々のことに対する心労と責任感とにあなたを縛り付けていた綱はいまや引きちぎられた。ならば休みなさい、我が息子よ、安らかに眠れ。さあ、私はあなたに神の創りたもうたこれらのもの、あなたの従者を連れて来た。彼らはあなたの先に立って安らぎの地に行き、そこであなたに仕えるだろう。

 

「我が息子」と訳した箇所はナワトル語では「nopiltzin」だった可能性があり、だとしたら「我が君」といった訳の方が適切かもしれません。実際の弔辞がどのようなものだったかは現状私には確認しようがないんですが、しかしナワトル語の原文が知りたい、朗読してほしい……。
 

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