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アステカ者の皆様お待たせしました、今回は久し振りにアステカ神話ネタです。

たびたび言ってますが、「オメテオトルの4柱の息子たちは赤のテスカトリポカことシペ=トテク・黒のテスカトリポカ・白のテスカトリポカことケツァルコアトル・青のテスカトリポカことウィツィロポチトリ」じゃないんです。「トナカテクトリとトナカシワトルの4柱の息子たちは赤のテスカトリポカことカマシュトリ・黒のテスカトリポカ・ケツァルコアトル・ウィツィロポチトリ」なんです。
この件についてはいずれ詳しくまとめたいんですが、今回はとりあえず長男について語ります。

この「原初神夫婦の4柱の息子たち」の神話の出典は『絵によるメキシコ人の歴史』ですが、そこでは赤のテスカトリポカはカマシュトリ(ミシュコアトル)となっています。しかし、他の史料では赤のテスカトリポカはシペ=トテクだということの方が多いです。それ故か、4兄弟の内訳もシペ=トテク・テスカトリポカ・ケツァルコアトル・ウィツィロポチトリと変更して紹介する記述をしばしば目にします。また、読者にとっても図像がほとんどないカマシュトリよりも、図像が多くしかも皮をはがれた上に生皮をまとっているという衝撃的な姿のシペ=トテクの方が印象的で記憶に残りやすいでしょう。そんな訳で、シペ=トテク・テスカトリポカ・ケツァルコアトル・ウィツィロポチトリが4柱の兄弟神であるという設定が広まったようです。

確かに、『絵による』でもカマシュトリ(ミシュコアトル)は世界の創造の際にはあまり目立った働きをしていません。兄弟4柱勢ぞろいでトラロック・チャルチウトリクエ夫婦を生み出したりはしますが、カマシュトリが単独で何かするということはありません。それではカマシュトリである必然性も薄いので、だったら他の史料で赤のテスカトリポカとされているシペ=トテクにまとめた方がシンプルで解りやすくなる、そう判断する研究者が多いのもうなずけます。

ですが、私はここで異論を唱えます。
なるほど、世界の創造に関する部分を見る限りでは、4兄弟にカマシュトリが含まれる必然性は感じられません。シペ=トテクに置き換えても特に差し支えはないように思われます。
しかし、もっと先まで読むと話は違ってきます。カマシュトリ(ミシュコアトル)はチチメカ人を作り出し、自らもチチメカ人となり一族を率いて各地で戦い、そして1人の女性と出会い息子セ=アカトルが生まれますが、チチメカたちの反乱に遭い物語から退場します。
つまり、カマシュトリには「チチメカの祖」という重要な役割があるのです。
カマシュトリないしミシュコアトルは1人の女性との間に息子セ=アカトルを儲けるが一族の者に裏切られ命を落とす、といった話は『メキシコの歴史』『太陽の伝説』など他の史料にも類話が見られます。
そしてそれは、シペ=トテクのエピソードではないのです。なので、知名度やヴィジュアル的なインパクトなどの理由でもってカマシュトリをシペ=トテクで置き換えてはいけないのです。『絵による』の4兄弟の長男はカマシュトリ(ミシュコアトル)でなければなりません。
『絵による』はメシカ人の「公式の」世界史の好例だともされる史料ですが、メシカ人にとってはチチメカの創造は天地や太陽などの創造と同じように重要なことであったといえるでしょう。
チチメカの祖たるカマシュトリ(ミシュコアトル)が原初神の4柱の息子たちの一員であることが『絵による』で語られる歴史においては重要なことであったと思われます。

ちなみに、『インディアス教会史』という史料では、ウィツィロポチトリ・テスカトリポカ・カマシュトリ・ケツァルコアトルの4柱の神々がそれぞれメシコ(テノチティトラン)・テスココ・トラスカラ・チョルーラの主神であるとされています。『絵による』の4兄弟と同じ顔ぶれだということに何らかの関連があるのかもしれません。

ところで、なぜ『絵による』ではカマシュトリが赤のテスカトリポカなのかということについては、まだ自分的に納得のいく解釈が見つけられていません。黒のテスカトリポカも新しい火を熾す際にミシュコアトルと改名しているので、ミシュコアトル経由でカマシュトリもテスカトリポカと結び付いたのでしょうか?
カマシュトリ(ミシュコアトル)でもありシペ=トテクでもある赤のテスカトリポカとは一体どういうものなのか、今後も調べて行きたいと思います。

それにしても、4兄弟の話については誕生~世界の創造までしか紹介しないだけでなく、『絵による』版のセ=アカトルのエピソードは他の史料のものとかなり違っている(テスカトリポカにトゥーラを去るように言われあっさり受け入れる、というか事前に覚悟完了してたとか)ためにかなりマイナーなこともあり、4兄弟の長男カマシュトリ(ミシュコアトル)がチチメカの祖となったところまでは触れない資料が多いため、本来の神話がなかなか知られないというのはもどかしいものがあります。

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