ひどいや兄さん

 機会を得て、沢田ユキオ先生の『スーパーマリオブラザーズ2』(徳間書店/1巻1986・2巻1987・3巻1988)を読むことができました(あんずパイさん、ありがとうございます)。
収録されている各話の詳細は他のサイトさんに譲りますが、ギャグてんこ盛りかつ燃えや感動もあり、まさに児童漫画の王道といった感じで、今読んでも楽しめます(時事ネタも多いけど)。しかし、今……2005年の今読むと、違和感を感じる描写もあります。特に、ルイージに関して。
ルイージの一人称が「オレ」だったり、マリオのことを呼び捨てにしていたり、現在流通しているイメージとはかなりかけ離れているのです。そういえば、同じ頃に出版されたゲームブック『スーパーマリオブラザーズvol.3 マリオ軍団出撃』(著:池田美佐 編:スタジオ・ハード/双葉社/1987)にも、こんな文がありました。
「まったく平和な世の中だぜ、兄貴。何かこう、パーッと派手で面白いことはないのかね。あくびが出ちゃうぜ」
”星空の下でお茶とパイなんて、けんかっ早いルイージには、およそ似合わないぜ”
……どうやら、この当時のルイージには内気だとかいじけているとかいったイメージはあまりなかったようです。

 それがどうして、現在のように変わっていったのか。要因には様々なものがあるでしょう。当サイトの取説でもぼやいてますが、後から出てきたヨッシーやワリオの方がもてはやされ、ルイージは冷遇されるという状況が長く続いたということも大きいと思われます。SMB3〜SMW辺りからすでに兆候が見られていたような気がしますが、それでもその頃はオフィシャル設定にまで反映はしていませんでした。それが今では、「ひどいや、兄さん。いつも兄さんばっかり冒険して、ボクはおうちで留守番だなんて」 (※1)  「え!? もしや、せかいいちカゲがうすくて たよりない と うわさの ルイージさん?」(※2) などという台詞が公式のものとして発言されている始末。
 (※1…任天堂公式サイト・ マリオストーリーキャラクター紹介ページより http://www.nintendo.co.jp/n01/n64/software/nus_p_nmqj/game/chara/page02.html)
 (※2…SM64DS・キノピオの台詞より)

 ルイージ出演作が再び増えてきたのはマリオパーティ辺りからかと思いますが、「ルイージ=影が薄い、いじけている」といったイメージを決定付けたのは、やはりスマブラでしょう。隠しキャラだったりいじけてみせるのがアピールだったり、「永遠の二番手」という称号(?)が付いたのもこのゲームからでした。時のオカリナのインゴーでも臭わされていましたが、ルイージが長らく抑圧されているという事実、影が薄いという印象、その結果鬱屈してしまっているという想像……それらが作り手とユーザーとの間で共有されるという状況ができあがっていました。
ところで、マリパ以降はまたマリオ関係のゲームが多く発売されるようになっていますが、それ以前にはマリオさえポケモン人気の陰に隠れてしまっているという状況がしばらく続いていました。そのため、断絶というのは大袈裟ですが、どうもあの頃を境として、ファンも変化したんじゃないかという気がするのです。
ルイージの待遇の変遷を知る者と、最初から「影が薄い」存在としてルイージを見る者と……ファンの変化というか、世代の変遷に伴った変化ですか。しかし、やはりあの頃がターニングポイントだったろうと思われてなりません。

 話は変わりますが、この項のタイトルにもなっているルイージの台詞「ひどいや兄さん」
初出は、おそらく吉田戦車先生のマンガ「Pの風船の巻」(出典:『任天堂公式ガイドブック スーパーマリオワールド』APE・小学館編/小学館/1991 121頁)でしょう。マリオにパワーバルーンを食べさせられたルイージが、浮かびながら「ひどいや兄さん ひどいや兄さん」と叫ぶといった話なんですが、「なにやらいかにもルイージが言いそうなフレーズだ」と、それを読んだものに感じさせるインパクトがあったと思います。また、ルイージが「いつもこういう攻略本だと兄さんが主役なんだよな ちんちんはぼくのほうが大きいのに」とぼやく話も吉田先生は描いているのですが(「ルイージの思いの巻」、前掲書41頁)、そういったネタも相まって、ルイージのいじけイメージが確立していったということも言えそうです。そしてついには任天堂自らがルイージにこう言わせたと。「ひどいや、兄さん」

 「たかだか攻略本にそこまで影響される?」という方もいるでしょうか。しかし、あの頃の公式ガイドは、単に攻略記事が載っているばかりではなく、マンガやインタビュー、コラムなども充実していて、読み物としても面白いものでした。当時のマリオファンのかなりの部分は読んだことがあると思います。コクッパ紹介でも少し触れましたが、影響力は結構あったような気がします。
年寄りの繰言と言われそうですが、当時のような遊び心が今の公式ガイドにも欲しいです。『任天堂公式ガイドブック スーパーマリオコレクション』(APE・小学館編/小学館/1993)のインタビューコーナー「わたしとひげおやじ」で、ブロック製造業の社長やキノコによるがん予防研究の権威といった人達に話を聞きに行くセンスとか、たまりません。そして、「宮本茂のマリオ的心」で語られていた2Dマリオにいまだに期待してしまっている年寄りはにじのまんなかで僕と握手。

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